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July 31, 2005

軟らかい機械

1年間カタログ集めしていろいろと調査した挙句、高校1年の正月にやっとオーディオ環境を手に入れた。実はその3ヶ月くらい前からフライングでLPを買い始めていたのだが(笑)。すでにご紹介している通り、最初に買ったLPは『ジェネシス・ライヴ(Genesis Live)』だったが、最初のうちはライナーを読みたかったので邦盤ばかり買っていた。レコード屋に行っても、いつも邦盤コーナを物色していた。一度レコード屋に入ると2時間くらいは出てこないので、一緒に行った友人をいつも閉口させていたものだ。次第に友人と連れ立ってレコード屋に行くことは無くなり、独り黙々と自分が聴きたいレコードを探し回っていた。今にして思うと、当時は他の客との駆け引きもあったと思う。なにせ当時はまだ通販なんて便利なものは無かったし、欲しいレコードは山ほどあって、それを懐具合と相談しながら自分が聴きたい順に手に入れていきたいわけで、買うのを見送ったレコードはひょっとしたら他の客に買われてしまって、そのまま廃盤になり、二度と手に入らないかもしれないという危機感さえあった。現にそうやって見送ったレコードでいまだに手に入らないものもある。

というわけで、手に入れたいレコードを邦盤から探し出すのに限界を感じ始めた頃、ふと輸入盤コーナを覗いて見つけたのが、ソフト・マシーン(Soft Machine)のサードアルバムだった。価格もお手頃だったので迷わず買ったのだが、自宅に戻って開封した途端、ひっくり返ってしまった(笑)。2枚組のLPで4曲しか入っていない・・・つまり全曲LP片面曲だ。当時既に聴きたいと思って買ってはみたものの、一聴してギャフンとなったレコードが結構あったので、急に頭の中が重苦しくなっていった。「またか・・・」と、いくら興味のあるレコードでも聴いてすぐに気に入るものは滅多に無いことを痛感し始めた時期でもあったのだ。欲しい一心で買ったレコードを自宅に持ち帰って、そういう後悔の念を感じることが多くなっていた。『クリムゾンキングの宮殿(In The Court Of The Crimson King)』『展覧会の絵(Pictures At An Exhibition)』のような、一聴してその素晴らしさが分かるレコードはホントに稀だ。

結果的には、最初から最もヘヴィなアルバムを買ってしまったわけだが、その時はまだそれが分かっていなかった。どれを聴いても最後まで曲を追うことが出来ず、そのまま眠ってしまう・・・というのがしばらく続いたので、断片的な曲のイメージいろいろと頭に残したまま放置してしまった。高校生が聴くにはちょっと高尚過ぎるのではないかと思われたのだ。ただ、何とかしてこの音楽を味わいたいという気持ちというか焦りもあった。もちろん周囲に彼らのレコードを聴いたことがある者は誰も居なかった。

そこでちょっと目先を変えて、その当時では唯一のライヴアルバムだった『Alive & Well In Paris』を買って聴いてみた。このアルバムのバンドメンバには、サードアルバムの頃のメンバが一人も居ないという状態だったが、ジョン・エサリッジ(John Etheridge)やジョン・マーシャル(John Marshall)の逞しい演奏は素直に楽しめるものだった。それと同時に、サードアルバムからこのライヴアルバムまでの間にいったい何があったのかという点で、さらに興味が湧いていった。

もともと彼らのルーツは、60年代初期のデヴィッド・アレン・トリオ(Daevid Allen Trio)まで遡る。当時のメンバはデヴィッド・アレン、ヒュー・ホッパー(Hugh Hopper)、ロバート・ワイアット(Robert Wyatt)の3人で、ウィリアム・バロウズ(William Burroughs)やテリー・ライリー(Terry Riley)とパリで仕事をしていたという。発掘された音源にはマイク・ラトリッジ(Mike Ratledge)も参加している。66年頃にはワイルド・フラワーズ(Wilde Flowers)として、ブライアン・ホッパー(Brian Hopper)、リチャード・シンクレア(Richard Sinclair)、ケヴィン・エアーズ(Kevin Ayers)等と一緒に、リズム&ブルース、ソウル、実験的なジャズを混ぜ合わせたような奇妙な演奏を行っていたらしい。68年にワイルド・フラワーズの半分がキャラヴァン(Caravan)になり、(それ以前から?)デヴィッド・アレン、マイク・ラトリッジ、ケヴィン・エアーズ、ロバート・ワイアットの4人は、ウィリアム・バロウズの小説のタイトルからソフト・マシーンを名乗るようになった。

この後続く経緯は、読んだ文献によっていろいろなので、詳細に書こうとすると不可解なことが多い。要約すると・・・ピンク・フロイド(Pink Floyd)とともにUFOクラブで演奏していた時期は、オーディエンスの反応が良くなかったので、一時フランス南部に活動の場を移している。その後イギリスに戻る際、デヴィッド・アレンが入国出来ず、3人で活動を継続することになる。前後関係がよく分からないが『Jet Propelled Photographs』というデモが存在し、これにはデヴィッド・アレンが参加していることになっている(後にアルバムとして発売される)。67年の終わりにジミ・ヘンドリクス(Jimi Hendrix)と一緒にアメリカツアーを行い、68年にファーストアルバム(『Soft Machine』)を録音する(このアルバムは70年代半ばまでリリースされなかったらしい?)。このツアーでバンドの状態はボロボロになり、ケヴィン・エアーズが脱退する。マイク・ラトリッジとロバート・ワイアットはローディをやっていたヒュー・ホッパーをメンバにし、ブライアン・ホッパーの協力も得て、69年にセカンドアルバム(『Volume II』)を制作する。この後、ジャズ路線を強め、エルトン・ディーン(Elton Dean)、リン・ドブソン(Ryn Dobson)、マーク・チャリグ(Marc Charig)、ニック・エヴァンス(Nick Evans)等のホーン奏者が相次いで参加し、70年にサードアルバム(『Third』)が完成する。

こうしてサードアルバムまで、アルバム毎にメンバがどんどん変わっていくが、この傾向はその後もずっと続く。唯一、71年の『4th』アルバムのみメンバの変動は微量だ。72年の『5th』アルバムではロバート・ワイアットが脱退してしまい、A面をエルトン・ディーンの秘蔵っ子フィル・ハワード(Phil Howard)、B面を元ニュークリアス(Nucleus)のジョン・マーシャルがドラムスを担当するという変則的な構成となった。73年の『6』ではエルトン・ディーンが脱退し、これまた元ニュークリアスのカール・ジェンキンス(Karl Jenkins)がホーン奏者として参加する。同年ヒュー・ホッパーがロイ・バビントン(Roy Babbington)と交代し、『7』ではオリジナルメンバがマイク・ラトリッジ一人だけになる。75年には超絶ギタリスト、アラン・ホールズワース(Alan Holdsworth)を迎え『収束(Bundles)』を発表したが、その後に最後のオリジナルメンバだったマイク・ラトリッジが脱退。『Alive & Well In Paris』は、元ウルフのジョン・エサリッジが参加した『Softs』の後で発表されたライヴアルバムということになる。興味深いのは『収束』発表時のメンバが、マイク・ラトリッジを除くと全て元ニュークリアスのメンバになってしまった点だろう。

さて、ソフト・マシーンのメンバの変遷を書いているうちに長くなってしまったが、結局サードアルバムはどうなったのか・・・それはソフトマシーンを中心とするファミリーツリーを辿りながら、カンタベリーのいろんなアーティストを聴いていくうちに、徐々に個々のメンバの音楽性や癖のようなものが分かるようになって、やっとあの長い曲をスルーで聴けるようになっている。また、聴き込む度に新たな発見があって、サックス、コルネット、トロンボーン、オルガン、ベース、ドラムス等の楽器の個々のメロディを夢中になって追いかけるようにもなった。

ロックファンにとって、サードアルバムの中で最初に耳に留まるのはきっと「Moon In June」であろう。理由は簡単で、唯一この曲にはホーンセクションが参加していないからだ。ロック・ミュージックにおいて、ヴォーカルと管楽器というのは相容れないものなんだろうか。また、管楽器がメイン楽器として活躍するロックバンドは、ロックファンに受け入れられ難いのだろうか?

考えてみれば、彼らの楽曲で、ホーンセクションをバックに歌っている曲はほとんど無い。皆無と言っても良いほどだ。もともとソフト・マシーンのヴォーカル担当はロバート・ワイアットとケヴィン・エアーズで、この2人の方向性は虚無的かつ楽天的であり、マイク・ラトリッジやヒュー・ホッパーとは明らかに違っていた。とくにロバート・ワイアットはドラマーとして、当時マイルス・バンドに居たジャック・デジョネットに匹敵するほどの凄いプレイを随所で見せていたが、それでもラトリッジとホッパーのジャズ路線(ホーンセクションの導入がエスカレートしてヴォーカルよりもトランペットやサックスを前面に出すという方針?)にはついて行けないということだったのかもしれない。このあたりはラトリッジの「Slightly All The Time」で素晴らしく繊細なプレイを披露しているのを考え合わせると、解せないというか残念である。

ファーストアルバムから『ランド・オブ・コカイン』までで、管楽器奏者が居ない(または使っていない)のはファーストアルバムだけだ。ただ、ホーンセクションと呼べるような構成で管楽器を導入していたのはサードアルバムと次の『4th』だけである。『5th』以降のアルバムではサックス奏者がかろうじて1名だけ居るという構成が続く。カール・ジェンキンスなんて、参加当初はバリトン&オーボエ奏者と思われていたのかも知れないが、マイク・ラトリッジが抜けた後はほとんど吹いていない。彼はニュークリアス時代からずっとピアニストであり、ソフト・マシーン解散後も管楽器奏者としての活動はしていない。やはりエルトン・ディーンとともに参加してきた、バリー・サマー・スクール勢(キース・ティペット一派?)であるマーク・チャリグやニック・エヴァンスが居た頃が、最も充実したバンド構成だったと思われる。

サードアルバムを聴きこなそうとあがいていた頃に、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)、オーネット・コールマン(Ornette Coleman)のアルバムをいくつか買って聴いた。そして彼らのジャズを聴いて、ソフト・マシーンのメンバがいったい何をやりたかったのか、だいたい分かったような気がした。当時の彼らの音楽は50年代モードジャズに対する憧憬であり、それを「自分たちならこうやってもっと刺激的に演奏する」というのを見せ付けたかったのではないか。あるいは、ジャズの巨人たちが歩んできた道の一つ一つをまとめ上げたかったのかもしれない。現にソフト・マシーンの音楽には、50年代ジャズへのノスタルジー、ビッグ・バンド、モード、アヴァンギャルド、インプロヴィゼーション、ロック、サイケデリック、ダダイズム、ヒッピー・カルチャー、ミニマル・ミュージックなどの要素が混然一体となって入り込んでいる。

サードアルバム発表後の彼らは徐々に洗練されていくが、その過程で凄いライヴを行っている。それが『BBC Radio One Live In Concert Vol.1』に収められている。彼らのライヴ音源は、CD時代になってからたくさん発掘されているが、絶好調でかつ音質が良いのは、71年頃の演奏を収録したこのアルバムだけだと思う。しかし・・・初めてのアメリカ公演で見た本場のジャズへの興奮が、ここまで持続していたのかという点に驚かされる。ラストで演奏している『4th』の1曲目「Teeth」には、なんとロニー・スコット・クラブの主宰者ロニー・スコット(Ronnie Scott)が参加している。

『5th』以降、洗練の一途を辿る中で、前述したようにニュークリアスのメンバがどんどん参加し、『収束』の頃にはマイク・ラトリッジを除いた4名が元ニュークリアスのメンバになった。その中の一人がアラン・ホールズワースだったということだけが、なぜか非常に有名である。不思議なのは、もうサードアルバムで全てを成し遂げたはずの彼らが、なぜ以降もバンドを継続したのか・・・である。やっぱりソフト・マシーンという大樹を生かしておかないと、シーン全体を壊してしまうという危機感があったのだろうか。偶然かもしれないが、カンタベリーの主要な活動が続いた81年まで、ソフト・マシーンは生き続け、解散を見届けたジョン・マーシャルは再び古巣のニュークリアスに戻っている。最近ではソフト・ワークス(Soft Works)とか、ポリ・ソフト(Poly Soft)とか、ソフト・マシーン・レガシー(Soft Machine Legacy)とか・・・そういった形で70年代のソフト・マシーンが受け継がれている。

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Comments

グッドトリップさん、いらっしゃい!

ジャズロックは私も大好きです。今でもBRITISH JAZZ ROCKという本に掲載されているアルバムを見つけるとついつい買ってしまいます。今後も「アーティスト」というカテゴリでジャズロックについていろいろと書いていくと思います。どうぞ、よろしく!

Posted by: ノブりん | October 29, 2005 at 11:10

以前よりちょくちょく拝見させていただいておりました。
SoftMachineの記事を当方も(軽くですが)書いてみました。個人的にJazzRockはダイスキなんですよ。

Posted by: グッドトリップ | October 25, 2005 at 10:51

エディさん、コメントありがとうございます。

ソフト・マシーンを理解するために、いろいろと調べましたので詳しいように見えるかもしれませんが・・・記事の方はまだ加筆するつもりです。一応プログレ・ファンですが、メジャーなバンドも聴きますよ。

よろしくお願いいたします。

Posted by: ノブりん | August 13, 2005 at 22:28

はじめまして。
コメント&TBありがとうございました。
ソフトマシーンについての記事、読ませていただきました。かなり詳しいですね。プログレ系のファンでしょうか?私もメジャーなバンドは結構聴いていました。
今後ともよろしくお願いします。
ついでに、こちらからもTBしておきます。

Posted by: エディ | August 13, 2005 at 22:01

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